2016年度図書館研究奨励賞授賞報告

図書館研究奨励賞選考委員会


この「図書館研究奨励賞」は,過去2年間に当研究会の機関誌『図書館界』に掲載された「論文」または「現場からの提言」を対象として,若手の実務家,研究者に,年度ごとに授与するものです。

この賞の選考のための委員会に関して,2016年度第1回理事会で,志保田務を委員長,前川和子を担当理事に選任し,委員長,担当理事を通じて委員を塩見昇,南亮一,村岡和彦各氏に委嘱し,就任承諾の返事を得ました。

選考対象「論文」は16本でした。うち4本は受賞歴のある著者の新著作で,再度授賞はできません。また11本は前理事長など研究歴のある方の著作であるため,本賞の趣旨に基づき対象から外しました。残る1論文は,修士論文形成段階と見てとれ,次作に俟ちたいと合議しました。

残るは「現場からの提言」3本で,これを対象に2次選考し,選考委員個々の講評を2017年1月中旬に集約しました。

上記の関係3作は,いずれも「現場からの提言」というこのコラムの性格に合うというよりも「論文を目指した短文」という体裁の著作でした。

そうしたなか,何とか若手の研究を振興したいと,加藤和英氏に授賞を決定し,結果を本年1月29日第6回理事会に報告しました。なお68巻4号で募集した推薦への応答(応募)は得られませんでした。

受賞作「県立図書館の課題と方向性に関する一考察」(加藤和英著,68巻第3号)は県立図書館,県立高校図書館を異動している著者が書いたもので,比較上最も「現場」性が強く,具体的な「提言」性が認められ,授賞に至りました。また後述のように,良くも悪くも議論にのびしろを感じさせるところがあり,奨励賞に見合うとも思われます。

この著作は,県立図書館論議を整理したうえ,自己の主張を投じようとしたものです。つまり県立図書館の役割を,市町村立図書館の図書館サービスとの間の二重行政という役割(批判)を超えて,公的支援に社会的な合意を得る方向を探り今後の在り方を,次の点から提言しています。
 (1)利用圏域の拡大
 (2)その機能分担を市町村との間で確立すること

具体的には,県内市町村図書館に対する図書館間貸出において市町村図書館を支援し,県立の対利用者サービスとして意識すること。また未設置市町村や小規模自治体に特化した支援とすること,さらに調査研究機能の専門分化による専門図書館化(著者は医療・健康分野にその展開を重視する)に求めるとするものです。こうした論述は,県立図書館を県民サービスの機関と把握する立場を,具体的な中身を伴って提起したものと評価できます。

ただし,いささかの付言をしておきます。

著者は先に県立図書館不要論を公表しており,今回はこの論を封印して論を進めています。著者において今後それら二面の止揚が必要でありましょう。また著者が力説する県立図書館の未設置市町村に特化した支援活動は,日図協の「公立図書館の任務と目標」(1987)において,県の図書館振興策の一環としての提起が既にあり,現実にもその面を意識した活動が存しています。先行例を自説にどう包摂していくかが課題であり,今後に期待を抱かせます。

ここに,加藤氏へ2月18日,第58回研究大会初日研究発表の後,前田章夫理事長から授賞しました。

今期,候補作は豊作でした。だが「図書館研究奨励賞」はこれからという個人を応援し,著作ではなく人を受賞対象として,1人に絞って授賞するとの申し合わせが理事会内に引き継がれてきました。内規にある「佳作」(2名)は「奨励賞佳作」との語呂が不似合いかと適用を停止してきました。今後,理事会内で再検討,議論が引き継がれるでしょう。

こうした検討の結果次第で,今回1次選考,2次選考で外した著作が,次期2次選考の候補作にカムバックすることもありうると思われます。

新年度には,新しい投稿が加わり,一層豊かな鍔競りあいが起こることを期待したいと思います。

そして,受賞者たちが,瀬戸内市民図書館の創設に挑戦し館長となった嶋田学氏(2011年度受賞)のように,館界の発展に貢献されるよう祈ります。

(2016年度日本図書館研究会図書館研究奨励賞選考委員会:委員長・志保田務,担当理事・前川和子)

(本報告は『図書館界』69巻1号に掲載)