2019年度図書館研究奨励賞授賞報告

図書館研究奨励賞選考委員会


 図書館研究奨励賞は,過去2年間の『図書館界』に掲載された「論文」と「現場からの提言」の中から優秀作に,研究奨励賞という性格から若手あるいは中堅の書き手の方に差し上げる賞です。今年度対象は,2017年11月号(69巻4号)から2019年9月号(71巻3号)です。

 この賞は,故森耕一理事長の基金によって,1990年度から始まり,受賞者には,賞状と,副賞10万円が贈られます。

 そして,この賞は,当選考委員会と会員の皆さまのご協力によって決めることになっており,昨年『図書館界』5月号に,奨励賞の理解と会員の皆さまからの自薦,他薦をお願いし,11月号には12月9日(月)を締切にすることを掲載しました。しかし,残念ながら2019年度は,会員からのご推薦がございませんでした。

 2019年度の選考委員会は,選考委員5名で構成されています。昨年の6月に,理事会の承認を得ました。今年度選考委員会メンバーは,外部選考委員の長倉美恵子様,志保田務監事,嶋田学理事,そして,奨励賞担当理事の常世田良と委員長の前川和子の計5名です。

 2019年度の奨励賞授賞作は,『図書館界』69(4)に掲載されました森井理恵氏の(論文)「看護基礎教育機関の図書館における利用者教育:効果的な情報リテラシー教育の要件からの検討」に決定いたしました。森井氏は,神戸看護専門学校図書室勤務です(2020年2月22日現在)。

 森井理恵氏の論文は,看護基礎教育機関は,どのような能力を備えた看護師を育成すべきかを検討し,その育成に情報リテラシー教育が重要なこと,それに図書館員はどう関わるべきか,関係図書館における望ましい情報リテラシー教育について考察したものです。日本における看護基礎教育機関は多様ですが,この論文では主に3年課程の看護専門学校,短期大学,4年制大学の,図書館員が勤務する看護図書館を対象にしています。森井氏自身がこの看護図書館で働きその中から問題意識をもって取り組んだ論文といえましょう。

 森井論文は,看護学生への情報リテラシー教育の必要性を述べた後,効果的な情報リテラシー教育に7つの要件があると考えます。この7つの要件は本論文の問題提起の基礎となるインタビュー項目にも使われている,重要な要件を導き出したといえます。ただ,要件の1 学生の「動機・タイミング」,2「正規の授業」であること,3「課題解決型の学習」を取りいれること,4「教育の期間」,とここまでは設定条件が明白ですが,5「協働」,6「学生の自信」,7「看護のための情報リテラシー基準」については,その明白性が分かりにくく,正当性や妥当性の説明を今少し丁寧にする必要性があったと考えます。また,教育現場の情報リテラシー教育においては,学生の情報リテラシーの向上効果が最も重要ではないかと思われるが,その裏付けが取れていないのではないか,という指摘や,看護基礎教育機関というコトバは図書館界で一般的なのであろうか,という疑問が選考委員の中にありました。

 このような脆弱点はあるのですが,森井氏の論文は,実務者らしい問題意識の下に,丁寧な文献研究と半構造的インタビューを合わせた研究で,明快な論旨展開が行われ,読みやすく作成されています。さらに,図書館司書が取り組むべき姿勢や手法について具体的に示されていると,何人かの選考委員からの評価もありました。

 論文の「終わりに」に,図書館員のいる図書館を対象にした論文でありますが,実際の看護図書館では図書館員がいず,教員が管理する図書館があるといいます。教員や事務職員の図書館に対する意識を明らかにすることができれば,と森井氏も述べておられます。

 このことも含め,今後もこのテーマをぜひ追及して頂きたいと選考委員一同期待して,本年度の研究奨励賞の受賞者と致しました。

 選考事務をご紹介します。

 今年度選考対象となるものは,『界』特集号を除き,研究歴のある方などを除き,選考時において日本図書館研究会会員で無い方なども除きました。その結果,今年度は4本が対象作となりました(昨年度は5本が対象作)。研究歴のある方というのは,例えば論文の最後の「謝辞」にお名前が掲載されている方や名誉教授の方です。また,ある程度の年齢になられていて,正規の教員などの地位にいらっしゃる方も除きました。

 選考委員は12月23日(月)に,本年度対象になった「論文」(今年度は「現場からの提言」はなし)の評価を研究奨励賞担当の2名に提出し,そのあとメール上で奨励賞に相応しいかどうかを議論致しました。今年度は1月の始めには合意に達しまして,2月2日(日)の第6回理事会に提出し,承認されました。

 2019年度研究大会は2月22日(土)・23日(日)に開催を予定し,22日に図書館研究奨励賞授賞式が行われる予定でした。しかし,COVID-19の広がりのため急きょ中止となりました。この賞の性質から,授賞者の森井氏にできるだけ早く受賞して頂くことを考えました。そのため3月16日(月)に,日本図書館研究会事務局にて関係者のみの授賞式を行いましたことをご報告いたします。

(2019年度,日本図書館研究会図書館奨励賞選考委員会:委員長・前川和子,担当理事・常世田良)