TOP > 大会・研究会等 > 国際図書館学セミナー > 2005年度 / Update: 2006.1.23

第4回国際図書館学セミナー報告

渡辺信一(日本図書館研究会国際交流委員長)

はじめに / 10月22日 / 10月23日 / 10月24日 / 10月25日 / おわりに

予稿集頒布のお知らせ
プログラム等(開催案内)


はじめに

 去る10月23日および24日の2日間にわたり,京都・同志社大学寒梅館で第4回国際図書館学セミナー(以下,国際セミナー)が開催された。日本で開催の前回(第2回)とはいくつかの点で異なっている。たとえば前回は,会場は初日が大阪市立大学で,2日目は(新しく開館された国立国会図書館関西館の見学もあって)最寄りの京都府精華町立図書館で,それぞれ行われたこと;また会期前半,主催者側(北克一理事(当時)/大阪市立大学大学院)による全面的な尽力があったと同時に,2日間を通して研究委員会(国松完二委員長代行(当時))の強力な支援があった。それに対し,今回は新しく国際交流委員会が組織されたこともあって,運営側としては多分に手探りの状況であった。

 研究発表については,これまで主たるテーマであった「情報テクノロジー」にとらわれず,広く発表領域を設定したところからテーマが多岐にわたったが,それに対する参加者からの意見/感想はおおむね好評であった。また多文化サービスの一環として,日本の図書館現場での中国への取り組み/図書館サービスを紹介する,日本側の事例発表が行われたこと;さらには発表者は比較的若手の図書館員や研究者が半数以上を占めたこと,以上が今回の主たる特徴であった。

 以下,十分な意は尽くせないが,紙面が限られていることもあり,概略,周辺的な説明にとどめ,次号で各執筆担当者が詳細な個別の報告を行う。

10月22日(土曜)

 12時半,中国側発表者の4氏(朱普徳,祝均宙,夏紅衛,劉暁丹の各氏)関西空港に到着。17時より,平安会館にて国際交流委員会および中国側との最終打ち合わせをかねて歓迎夕食会。会議が一段落したところで,国際セミナー会場下見。

10月23日(日曜)

 13時より,国際セミナー開会。中国側4氏が紹介されたあと,講演の部に入り,日本側の代表として塩見昇理事長が開会の挨拶を兼ねたかたちで,わが国における図書館/図書館研究の現状と課題について講演を行った。中国側は講演に先立ち,代表格の朱氏が上海図書館・呉建中館長のメッセージ(ごあいさつ)を代読,劉氏が日本語で紹介。なお,当日配布の「発表要綱」に全文掲載あり。

 続いて劉氏により,上海市における図書館の事業発展の現状と課題について講演がなされた。

 14時30分より,研究発表の部に入り,筑波大学大学院生の梁桂熟氏が中国のサブジェクトゲートウェイの現状と課題,奈良女子大学附属図書館の呑海沙織氏が学術情報基盤の形成−CADLISとNII,中国文化名人筆記館副館長の祝氏が近代在日出版の中文雑誌について,それぞれ研究発表を行った。

 17時には,寒梅館7階のレストラン“Second House will”にて,武内隆恭氏の司会で懇親交流会が行われ,伊藤昭治氏ほか,多くの方々によるスピーチとともに日中友好の祝杯をあげて歓談した。

10月24日(月曜)

 10時より,上海図書館の夏氏は公共図書館における視覚障害者サービス,京大人文科学研究所の梶浦晋氏は日本における仏教典籍を中心とした中国開版典籍の収蔵について,それぞれ研究の成果が発表された。 昼食をはさんで,午後は13時15分より事例発表が行われた。図書館現場の状況をより具体的に紹介,質疑応答も実際に根ざすものであった。すなわち,劉氏は上海図書館の都市新職業開発および就職トレーニングを盛り込んだ発表を,また朱氏は上海図書館読者の統計について,日本側は国立国会図書館関西館アジア情報課の鴇田潤氏は中国情報の収集と提供,大阪市立中央図書館の小笠原智香氏は中国語図書を中心とした多文化サービス,関西国際センターの浜口美由紀氏は中国人利用者へのサービスについて,それぞれ身近な現場での報告がなされた。

 16時には,同志社大学 八田英二学長より歓迎の挨拶があった。スピーチの内容としては,会場の寒梅館の名のいわれについて,中国でも愛される梅の花のもつ楚々たる美しさと気高さを詠じた同志社の校祖・新島襄の漢詩「寒梅之詩」などを紹介。また同志社大学が学術文化の交流を果たしている中国の諸大学に言及するとともに国際セミナーの成功,日中両国のライブラリアンシップの発展を祈念された。

 最後のプログラムとして,今後の国際図書館学セミナーのために総括/意見交換が行われた。壇上には中国側4氏と日本側は塩見理事長,この日の発表者4氏,そして第1回の国際セミナーから積極的に参加・貢献の北氏,そして通訳の祖国威氏,それに司会の私を入れると皆で12名という,オールキャストの登場であった。全体の構成を,過去,現在,未来の三つの柱に大別。「過去」では『図書館界』の報告記事を配布・言及しながら,第1〜3回の国際セミナーについて,フロアからの上海図書館・章騫氏も含めて参加者の発言があった;「現在」では第4回,つまり今回については,登壇の発表者全員からコメントがなされた。

 最後に「未来」では,第5回以降を念頭に入れて,諸氏のご発言を促した。その際,呉館長から託された,「(国際セミナーに対する)今後に向けての当所の意向」および来年8月17〜19日に上海で開催予定のフォーラム(SILF)について,朱氏より説明がなされた。

 この2日間を通して,いずれの発表でも質疑応答が活発に行われたが,第1日目の塩見理事長の講演に関連して,中国側の朱,祝両氏から日本の図書館の民営化に関する質問があり,中国側の関心の深さが感じられた。回答には時間を要するところから,最後の意見交換の時間を使って行われた。塩見氏は時間をかけて分かりやすく丁寧に説明しながら,この種の改革は図書館サービスの基本的理念を損なうものであり,決して容認されるものではないことを強調。このことは,社会変化の渦中にあって,暮らしに生きる図書館が無料公開の原則に基づく“知識の宝庫”として存在し続き得るかどうか,世界共通の話題として問題提起をしたものといえよう。

 最後に,中国側は朱氏,日本側は塩見氏により閉会の挨拶がなされ,盛大な拍手により閉幕となった。

 なお,18時より上記7階のレストランで上海からの客人や発表者などに労をねぎらう意味で,理事長招待晩餐会が開かれた。

10月25日(火曜)

 午前中,中国側ご一行は梶浦氏の京大人文科学研究所を訪問・見学。そのあと,金閣寺の庭園を散策,続いて嵐山に故・周恩来総理の詩碑を訪ねるなど,古都・京都での有意義なひとときを過ごされた。

おわりに

 今回は,国際セミナーの開催が間近になって小泉首相の靖国神社参拝という事態が起こった。戦中/戦前の世代としては,中国の人たちの,A級戦犯合祀への不快感情が少なからず感じられるだけに,今回の国際セミナー開催を推し進める当事者として大いに危惧したことであった。幸い,上海からの客人たちは明るく,元気に関西空港に降り立ち,日本でのすべての日程を誠実にこなして帰国されたことは大きな喜びであり,感謝でもあった。今後とも当セミナーが永続し,日中両国のライブラリアンシップの相互理解と発展のために,いささかなりとも私たちが寄与できることを心から願う次第である。また劉氏,祖氏おふたりがすばらしい日本語の通訳をしてくださり,たいへん重宝したことも付言したい。終わりに発表者をはじめ,多くの諸氏による格段のご協力とご支援のお蔭で,第4回国際図書館学セミナーが成功裏に終了したことに対して,この場を借りて厚く御礼申し上げる次第である。