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《座標》
『図書館界』71巻6号 (March 2020)

図書館を「サードプレイス」ではなく「第三の場」に

久野 和子

 近年「サードプレイス」を標榜する公立図書館が登場している。その中には,人気のチェーン系カフェ
を設置したり,イベントを数多く実施したりしている図書館もあるように思う。しかし,この概念を提唱
したアメリカの社会学者オルデンバーグが,チェーン店や大型ショッピングセンターを地域性や独自性の
ない「非場所」(nonplaces)と批判していることはあまり知られていないが,「本物の場所」(real 
places)では,人は独自の人格をもつ個人として存在できるが,そうした消費資本主義的な画一的場所で
は,人は名もなき単なる「顧客」になってしまうとオルデンバーグは言う。行き過ぎた商業主義的な図書
館運営は,賑わいを創出しても,図書館がカフェ化,チェーン書店化され,利用者が「市民」ではなく単
なる「お客様」になることには不安を感じる。
 
 これまで公立図書館が社会的使命としてきたメッセージが,近年は行政へのアピール力を弱めつつある。
この苦境の中,行政の無理解を嘆いたり,公立図書館の「正しい」あり方を主張したりするだけでなく,
激変する社会を恐れず直視することが必要なのではないだろうか。行政や住民が図書館に対して何を望ん
でいるのか,人々は図書館で実際に何をし,何の意味を見出しているのかを,利用者の「学ぶ」「読む」
という視点とともに,「生きる」「生活する」「楽しむ」というもっと広い観点からも捉えなおすことが
必要とされているのかもしれない。
 
 現代日本における生活課題や社会的ニーズの中で,特に注目されているのが人的な「つながり」(「社
会関係資本」)である。そして,文化的な公共空間である図書館が,従来の図書館機能を基軸とした良き
「出会いと交流の場」として,「社会関係資本」の醸成や地域コミュニティの形成に貢献することを社会
や行政から期待されている。それは図書館にとって重要な活路になりうるだろう。しかし,公立図書館と
して目指すべき「出会いと交流の場」は,いわゆる商業主義的な「サードプレイス」ではなく,オルデン
バーグが説いた本来の良き公共空間としての「第三の場」(third places),もしくは従来から言われて
いる公共の「広場」だと考えられる。両方とも,消費にとらわれず,あらゆる人々が集い,出会い,交流
し,安心・安全に居心地良く過ごすことができる,公開・平等・自由を旨とする場である。そうした「第
三の場」と「広場」とが幾分異なる点は,前者が,「社会関係資本」をより効果的に創出できるとされて
いること,楽しい「会話」や雰囲気があること,「家」のような「くつろぎ」や「癒し」をもたらすこと
などである。さらに「第三の場」成立の前提条件として,その場の安全・秩序を守り,地域や住民のこと
を良く知り,人と人,人と情報とを引き合わせることができる「第三の人」(=司書)が,管理者もしく
はスタッフとしていつもその場に居ることが挙げられる。
 
 オルデンバーグは「第三の場」の具体例として,住民の豊かな日常生活を支える地元密着の小さな自営
業のカフェ,書店,美容院などを挙げているが,公立図書館には言及していない。それは,図書館が会話
禁止とされるためと思われる。しかしながら,その後,「社会関係資本」という概念を世界中に広めたア
メリカの政治学者パットナムは,シカゴのある図書館分館が,「第三の場」の条件をほぼ満たしていると
報告した。そして,その図書館が公平で優れた図書館サービスによって利用者の貧富・階級・人種を超え
た融和をもたらし,豊かな「社会関係資本」を創出していると高く評価した。筆者が先般当該館を訪問し
たところ,地味で平凡な建物で,カフェもない,小さな図書館だったが,館内の活気ある和やかな様子と
居心地よく過ごしている多様な人種・階層・年代の人々を見て,改めて図書館の「第三の場」としてのあ
り方について再認識させられた。

(くの かずこ 理事・神戸女子大学)