学校図書館研究グループ >【歴史】(日図研75年史から)

 私たち「学校図書館研究グループ」は、学校図書館の充実を目指し、1990年3月近畿圏の学校図書館関係者に呼びかけ、「学校図書館と公共図書館の連携」を研究テーマに、河野奈美子、北村幸子、斎藤多恵子、塩見昇、谷嶋正彦、土居陽子、村田正廣のメンバーで、大阪教育大学塩見研究室において活動を開始した。大阪教育大学の移転に伴い、例会会場を日本図書館研究会事務局へ移し、月1回開催するほか、必要に応じて訪問調査やアンケート調査を実施して来た。
 『日本図書館研究会の50年』(1996年)以降の活動内容を時系列に報告する。

 これまでの「学校図書館と公共図書館の連携」についての調査から、大阪府では、住民による学校図書館充実運動の広がりで学校司書が配置され、公共図書館からの貸出が急増していることが分かった。そこで、公共図書館から学校図書館への貸出実態をアンケート調査し、第38回研究大会(1996.11)で「公共図書館と学校(図書館)の連携-資料貸出の実態調査をとおして考える-」として発表(清水理恵、土居)した。この時、公共図書館の学校図書館への支援体制の整備と学校図書館の自立の問題が浮かび上がってきた。そこで、学校図書館に「人」がいることでどのような連携が可能か、また、公共図書館が学校図書館との連携についてどのように考えているか現状を考察するために、小・中学校図書館に「人」が配置されている全国204の自治体にアンケート調査を実施し、第39回研究大会(1998.3)で「公共図書館と小・中学校図書館との連携-学校司書のいる自治体の市区立図書館への調査から-」として発表(二宮博行、羽深希代子)した。このアンケートから、学校司書の専門性と雇用条件がもたらす影響や、予算・蔵書・教育課程の問題など課題が見えてきた。また、公共図書館がサービスの一環として、市内の学校図書館を視野に入れた取組みを実施している豊中市(大阪)・箕面市(大阪)などの事例が参考になると考えた。
 第181回研究例会(1999.4)では、「学校図書館と公共図書館の連携について-箕面市の事例を通して」を発表(清水)した。学校司書が配置され始めて7年が経過した箕面市では、学校図書館の活動が活発になるにつれ、公共図書館との連携がより重要になってきている事例からより良い連携を考察した。
 公共図書館と学校図書館の連携に積極的に取り組んでいる自治体では、具体的にどのようなことが行われているか豊中市・箕面市を訪問調査し、第41回研究大会(2000.2)「公共図書館と学校図書館のより良い連携を求めて(中間報告)」を発表(久保田正啓、谷嶋)した。引き続き羽曳野市(大阪)・市川市(千葉)を訪問調査し、第199回研究例会(2001.4)で「公共図書館と学校図書館の連携-羽曳野市と市川市の事例より-」として発表(市川直美、羽深)した。
 図書館の機能を活用して教育を行う学校での、図書館ネットワークの活用と授業実践について、市川市・豊中市・箕面市・羽曳野市の公共図書館と小学校を訪問調査し、第43回研究大会(2002.3)で「図書館ネットワークの活用と授業実践」として発表(市川、北村)した。
 2000年度からスタートした「総合的な学習の時間」実施に伴い、学校図書館に司書が未配置の自治体においても、公共図書館の利用が急増し新たな課題が生じてきた。小中学校の先生向けに「図書館利用案内」を配布している立川市(東京)・大阪市・西宮市(兵庫)を調査し、第220回研究例会(2004.9)で「学校図書館と公共図書館の連携について-大阪市、西宮市の事例を通して-」として発表(谷嶋、土居)した。
 学校図書館支援センターの実態を検証するため、「学校図書館資源共有ネットワーク推進事業」を指定されているさいたま市(埼玉)を訪問し、教育委員会、公共図書館および小・中学校図書館の各々の担当者にインタビューした内容を、第241回研究例会(2007.1)で発表(市川、谷嶋)し、《現場からの提言》「公共図書館と学校図書館の連携-さいたま市の事例より-」として『図書館界』59(2), 2007.7に報告した。
 「学校図書館支援センター推進事業」の指定を受けている自治体・地域(59地域)へのアンケート調査から学校図書館支援センターの実態や課題を、第258回研究例会(2008.12)で発表(中村由布)し、白山市(石川)への訪問調査を加えて、《現場からの提言》「学校図書館と公共図書館の連携-学校図書館支援センター推進事業指定地域へのアンケート調査を実施して-」として『図書館界』61(1), 2009.5に報告し、連携を進める際には、子どもたが日常的に学校図書館サービスをきちんと受けられる体制が必要であることを再確認した。

 司書養成課程において、学校図書館がどのように扱われているのか、公共図書館職員が学校図書館に関してどの程度の基礎知識を持っているのかを調べ、第51回研究大会(2010.2)で「司書養成課程科目において学校図書館はどう教えられているか-中間報告-」として発表(狩野ゆき、髙木享子)した。続けて、第52回研究大会(2011.2)で「司書養成課程科目の中で学校図書館についてどう教えてほしいのか-現場からの提言-」として発表(狩野)し、どの科目でどのように学校図書館が扱われるのが望ましいかを、学校図書館の現場からの視点で提言した。

 全国的に小中学校の学校図書館担当職員は増加したが、学校図書館の活性化に結びついているか。公共図書館との連携から実態を探るために、大阪府下全自治体の教育委員会と公共図書館にアンケート調査し、第296回研究例会(2013.3)で「学校図書館と公共図書館との連携 : 大阪府下学校図書館現状調査からの考察」として発表(飯田寿美)した。その結果、教育委員会も公共図書館も学校図書館の充実に向け、様々な研修を実施していることが分かった。それらの研修は、学校図書館の活性化に結びついているかを探るために、大阪府下全自治体の教育委員会へのアンケート調査を実施し、第306回研究例会(2014.6)で「『大阪府下の学校図書館に関する研修の現状調査』からの考察」として発表(谷嶋)し、「学校図書館に関する望ましい研修内容」を提案した。
 その後検討を加え、第56回研究大会(2015.2)で「学校図書館に関する研修内容の提案」として発表(羽深)し、管理職向けの研修の必要性を提唱した。
 塩見昇氏の『図書館界』66(6)特別寄稿「学校図書館専門職員制度化の課題」を受け、ワークショップ(2015.8)「学校図書館専門職員制度化の課題について考える」を研究委員会と共催で実施した。
 これまでの調査結果をもとに、学校司書の研修と養成について、学校図書館現場の視点で考察し、第57回研究大会(2016.2)で「学校図書館職員の職務内容及び養成・研修の内容について」として発表(狩野)した。

 第322回研究例会(2016.6)では、「枚方市の学校図書館教育充実事業についての報告」として枚方市(大阪)の学校図書館事業を発表(市川)した。

 第329回研究例会(2017.5.)では、桑田てるみ氏(国士舘大学)を招き「学校図書館におけるアクティブ・ラーニング」の講演とワークショップを実施し、授業での学校図書館活用方法について考えた。

 公共図書館が教育委員会と協力して、学校司書への研修を実施している自治体(姫路市、枚方市)に聞き取り調査を実施し、第344回研究例会(2019.1)で「姫路市・枚方市における学校司書研修について-訪問調査からの考察」として発表(羽深)した。その中で、学校司書が知識として身につけておいて欲しい内容が、テキストにまとまっていれば研修がしやすくなると考え、「学校司書研修テキスト(案)」を使った模擬研修会を、第362回研究例会(2020.11)で「学校司書研修プログラムを考える」として発表(長田怜奈、中村、羽深)した。
 これからも、「学校図書館と公共図書館の連携」を中心テーマに据えて、教育委員会、公共図書館および学校図書館が協力して、学校図書館を充実させ学校教育を支えるより良い姿を求め、多角的な研究活動を続けていきたいと考えている。
 現在のメンバーは、飯田寿美、市川直美、岡田大輔、奥野吉宏、角所宙子、狩野ゆき、塩見昇、髙木享子、谷嶋正彦、土居陽子、中村由布、長田怜奈、二宮博行、羽深希代子、山田幸和で、学校司書、公共司書、教師、大学教員、文庫の人もいるという多様でユニークな構成になっている。

(谷嶋 正彦 『図書館界』73巻4号pp.270-271より)